30歳で初体験!? 軟弱男が火炙りになりながら地域のお祭りに参加してみた -筑後市熊野神社の鬼夜 参加体験記-

今年の1月5日、鬼の修正会(通称:鬼夜)が筑後市熊野神社で執り行われた。
実はわたくし、このお祭りに参加してきた。

なぜ筑後市在住でもない私が筑後市の鬼の修正会に参加したのか。
きっかけは遡ること約一ヶ月ほど前。
昨年の12月に筑後市観光協会の知人に呼び出された。
「鬼の修正会というお祭りがありまして」
観光協会の事務所に呼び出された私は知人からいきなり説明を受けた。
事務所に呼ばれて説明を受ける。もうこれは闇金ウシジマくんの世界である。
事務所に呼び出されていきなり説明を切り出されて逃げられるわけがない。
鬼の修正会の話をうんうんと聞き、「出てくれますか?」と言われたら出ない訳にはいかない。

そもそも筑後市の鬼の修正会とはどんなお祭りなのか。
久留米市の大善寺でも鬼夜が行われるが、筑後市の鬼夜と久留米市の鬼夜は由来が異なる。
筑後市の鬼夜は約500年前に始まったとされる火祭りである。
家内安全や無病息災を願うお祭りだが、それだけでなく、大松明の火の粉を浴びれば結婚できるとも言われている。
祭りの参加者は刈又と呼ばれる棒で竹や木を束ねてできた長さ約13メートル、重さ約500kgの大松明を支えて熊野神社の境内を3周する。
昔は神社ゆかりの男たちだけで行われていたが、近年は参加者数が減り大松明が転倒する恐れがあるから、市内外から参加者を募っているのだそうだ。

……。

…え?

大松明転倒??

長さ13メートル、重さ500kgの???

それ、危険やん。

そんなのに僕みたいな気弱な人間が出ていいの??

「大丈夫。大丈夫。あくまでメインは地元の慣れた人だから」
という甘い言葉。
え、ほんとかそれ。だって松明支える人が少ないんでしょぅ??

私が鬼の修正会の話を聞いていると、近くにいた観光協会のスタッフが声をかけてくる。
「何話してるんですか?」
「鬼の修正会の説明をしてるところ」
「ああ、男塾ですね」

男塾!!??

なにそのコードネーム。
男塾だよ。
男塾って聞いたら皆あのマンガ思い出すんだよ!!
俺なんて普段読んでるマンガ「のんのんびより」とか「ゆるキャン△」だよ!
男塾読んだことないよ!!

そんなわけで成り行きで筑後市民でもないのに筑後市の鬼の修正会に参加することになった。

1月5日。祭り当日。
18時に筑後市役所前に集合する。私以外に参加者は3人。計4人。心もとねぇ…。
参加費¥3,000を支払う。この参加費の中には保険代も含まれている。

車で熊野神社まで移動。神社にて無事を祈り、公民館に移動。
大松明担ぐまではまだ時間あるからここでご飯食べててよと案内される。
公民館に入ると、そこにはずらりと並んだ長テーブルと豪勢な料理と酒、酒、酒。
料理は刺し身に寿司に唐揚げにローストビーフ。
酒は大量のビールに日本酒。

す、すげぇ!

目の前の料理に私達4人は唾を飲み込んだ(チョロい)。
すでに長テーブルには地元の人達が座り大宴会状態。
私達は座りビールをお杓し合った。
ちびちびビールを飲みながら軽く自己紹介をし合う。
応募を見て参加したのは一人。後はみんな観光協会からの口説きとか。
ビールを飲んでいると地元の人がやってくる。
「今日はどうもありがとうございます」と頭を下げられたので、私達も頭を下げて「こちらこそよろしくおねがいします」と挨拶をする。
田舎の正月という感じだ。
私達は刺し身をつまみ、ビールをすする。
また地元の人がやってくる。
「本日はどうもありがとうございます。どうぞ酔わない程度に飲んでください」とお酌をされる。
「酔わない程度っていってもビール瓶の数すごいですよ」と冗談を言うと、皆が笑った。

「やっぱり参加者少ないですね」
「そりゃそうですよ。皆この時期ディズニーランドとか行きますって」
「でもディズニーじゃ刺し身や寿司食べれないですよ」
「3000円でこのごちそう食べれないですよね」
「あと、裸にもなれない」
などと冗談を言い合っていたら、唐突に
「祭りの説明するぞー!」
と声が響いた。
どうやら一旦食事を中断してオリエンテーションがあるようだ。
私達は外に出た。
大松明の説明がある。境内を回るという説明がある。
では刈又を持ってみましょうと促される。
刈又とは大松明を持ち上げる棒。棒といってもただの棒ではない。大松明に刺せるよう先端が銛のようになっている。
私達は刈又を持ち上げた。

……持ち上げた。

………持ち……上げ…た。

…どうしよう。持ち上がらない。

「え? なにこれ!? おもっ!!???」
思わず声が出る。
「もっと腰で持ち上げんか!」
背後から声をかけられ、「ぬぁぁああーー」という感じで持ち上げる。
なんとか持ち上がる。
だが、持ち上げた状態を維持し続けるのはキツイ。
「やばっ!」
刈又を地面に落としてしまった。
周りの参加者もビビっていた。
「そんなに重たいと?」
「うん。重たい」
「やばい」
さっきまでの余裕はぶっ飛び、私達は一気に焦り始めた。
再び公民館に戻る。
本番まで食べててよと案内される。
「おい、食っとけ」
「23時までなにも食えねえぞ」
「食ってスタミナつけとかないと」
「おい、酒も飲めって」
「シラフじゃあんなことできん」
私達は遠慮せず飯を流し込み、酒を食らった。
ぞろぞろと若い衆が集結し始める。どうやら市役所の祭り部の若者たちらしい。
皆若い。たぶん私らより若い。今どきの若者。サードウェーブ系男子みたいな人もたくさんいる。休日の趣味はY-3の服を着て馴染みのケバブ屋に行くことですみたいな男子もいる。
皆がプロではない、故に気を抜いたら大惨事になる。

ビールを飲んでいると、経験者の一人が声をかけてきた。
「いやー、初めて参加した時は手の皮がずるむけになりましたもん。お尻の火傷の痕がまだ消えないし」
私達は話の内容よりその経験者の顔を見つめていた。
坊主で、眉毛を剃っている。
坊主で眉を剃った厳つい兄ちゃんである。
そりゃあ中学生のときにいきって眉を剃るやつはいるだろう。
しかし大人になって眉を剃るやつなんてそうそういない。
いるとしたらそいつはまごうことなき強者である。
そして私達の目の前には今、強者がいる。
その強者が手がずるむけになってお尻を火傷して、火傷の痕が治ってないと申しておられる。
勝てない。私らのような軟弱ぽこちん野郎には勝つ見込みがない。
どんだけやべーんだよ、鬼の修正会って。

「ほらー!! 着替えるぞー!!!」
汽笛のような掛け声。
いよいよ始まった。
私達は服を脱ぎ、サラシを巻いた。靴下を脱いで足袋を履いた。
足袋を履くのにもたつく人が何人もいたが、私はスムーズに履けた。高校のときに弓道部に入っててよかったと思った。
着替えた者から外に出る。
寒い。
しかし、そんなことはどうでもいい。
男達が二列に並ぶ。
いつの間にか厳つい男達も集まっていた。どうやらベテランの彼らは別の場所で酒宴を開いていたようだ。
私達一般参加者、市役所の祭り部、ベテラン勢。
「ワッショーイ、ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
私達は熊野神社から離れた場所に移動させられ、火を囲み、ひたすら叫び続けた。
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
喉があっという間に嗄れる。
「飲むか!?」
と言って渡される透明の液体。もちろん酒。清酒。
清酒で喉を潤し、再び叫ぶ。
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
配られる酒。最初の頃は紙コップに入れて飲んでいたが、だんだん面倒くさくなり皆で一升瓶を回し飲みし始める。
酒を飲み、皆で肩を組み火の周りを回った。
気温は低いが、体は熱い。
清酒が、神事のときに捧げられる物だという意味がなんとなくわかった気がした。
21時前。
私達は小松明を持って隊列を組み、熊野神社に向かって走った。
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
熊野神社ではすでに燃え盛る大松明がそそり立っていた。
私達が神社から離れた場所で掛け声を掛け合っている間、熊野神社では神聖なやり方で大松明に火がつけられていたようだ。
いつの間にかものすごい数の観客も集まっていた。
大松明からはぱちっぱちっという竹が弾ける音が聞こえた。
燃え盛る炎が辺りの大気をゆらしていた。
裸の上半身が炎で熱い。肌がピリピリする。
大松明から炎がこぼれ落ちた。火の粉が舞う。肌に火の粉がかかる。チクッとした痛さ。
私達は小松明を地面に下ろし、小松明を囲って円陣を組んで叫び続けた。
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
「ワッショイ!」
「「ワッショイ!」」
鐘の音が聞こえた。
私達は刈又を手にした。
オリエンテーションの時は持てなかった刈又を今度は持ち上げることができた。
温まった体と酒で覚醒した脳のおかげだ。
刈又を構える。
「いくぞー!!」
誰かが叫んだ。いや、頭の中で聞こえた幻聴かもしれない。
私達は刈又を構えて大松明に向かった。
まるで戦のようだった。
火を噴く竜に槍で挑んでいる気分だった。
刈又の先を大松明に差し込む。
大松明から炎の塊が落ちてきた。
それが私達の上に降りかかる。
熱い。だが、気にしない。いや、気にならない。
もはや熱いとかそんなのはテンションを上げるための一要素。
全員で大松明を持ち上げた。
「ワッショイ!」
誰かが叫んだ。
「ワッショイ!」
もう一度誰かが叫んだ。
「ワッショイ!」
「ワッショイ!」
今度は誰かが応えた。
「ワッショイ!」
「「「ワッショイ!!」」」
声が大きくなった。
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
声の大きさに合わせて大松明が動き出す。
周りのお客さんから歓声が上がった。
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
私達は大松明を抱えて境内に通じる階段を登った。
が、ここで…。
大松明が刈又からこぼれて地面に落ちてしまった。
逃げる観客。避ける参加者。
石階段に叩きつけられた大松明からは火の粉が溢れた。
「落とすな! 落とすな!」
「持ち上げるぞー!」
どこからともなく声が上がる。
私達は刈又を大松明に突き刺して、再び持ち上げた。
「ワッショイ!」
「「「ワッショイ!!」」」
「まだまだ声だせー!!! 声合わせろーーーー!!!!」
「はい!!!!」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
大松明がゆっくりと動き始める。
気を抜けばまた大松明が落ちる。まるで暴れる竜を皆でひっぱっているようだった。
「お前あっちに回れ!!」
「後ろから刺すなー。前から支えろ」
熟練者の指示が飛び交う。
「おまえらそんなんでいいとやー!!」
「なにしよっとかーーー!!」
観客としてやってきていたOBが私服のまま飛び込んできた。
「こうやって持つとやーーー!!」
彼らは私服のまま刈又を構えて大松明に差し込む。
「ほら、声声!」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
「後2周ーーーー!!!!!」
「はい!!!!」
「お前、ポジション変えろーーー」
「刺す場所考えろーーー」
「慌てるな慌てるな」
「絶対落とすなよーー」
「何考えとるとやーーーー」
「声声声ーーーー」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
「ワッショイ!」
「「「「「「ワッショイ!!!!」」」」」」
目の前を舞う火の粉。かすかに聞こえる鐘の音。観客からの励ましの声。
「3周回ったぞーーーーーーーーーー」
「はーーーーーい!!!!!」
「階段降りるぞーーーー。今度は落とすなーーーー」
「はーーーーーーーーーい!!!!!!」
私達は大松明を支えながら一歩一歩階段を降りた。
今度は落とさなかった。
ゴールに辿り着いた。
「落とすぞ!!!」
「せーーーーーーーーーのっ!!!」
私達は一斉に刈又を外した。
大松明が役目を終えたかのように地面に落ちる。
火花が宙を舞った。
「終わったーーー」
「戻るぞ戻るぞーーーー」
私達はそれぞれ知り合いに声をかけたりしながら公民館に戻った。
公民館に戻ると皆トイレに行った。寒いところから暖かいところに戻ると緊張が一気にとけた。
服に着替えて、再び料理を囲む。
参加者同士お疲れ様と称え合いながら酒を飲んだ。
皆喉ががらがらだった。
肌が火の粉で赤くなっていた。
こんなに大声を出したのは何年ぶりだろうか。
高校の体育祭ぶりかもしれない。
地元の人がやってくる。
「おつかれさまです。ありがとうございます」と挨拶された。
私達も「ありがとうございます」とお礼を言った。
聞くところによると、この鬼の修正会は夏くらいから準備をしているらしい。
久留米大善寺の鬼の修正会と比較して筑後市の方が過激なのだとか。
地元の人達は明日の朝7時から片付けらしい。
ほんとに頭が下がる。
参加者同士でビールを注ぎ合いながら「来年も出るんですか?」と互いに訊いた。
「いやぁー、どうですかね」と皆照れを隠しながら答えた。
でも、来年も出たいと思った。
祭りの時に生まれる奇妙な友情と喉が嗄れるほどの発声はおそらく大人になってなかなか味わえるものではないから。

Photo:H.Moulinette
Text:K.Takeshita

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